イップス研究報告⑱

イップス検査法 

*観覧注意・・・イップスのことを考えると辛くてとても落ち込んでしまうという方は、このブログは読まないで下さい。

 今回はイップスの検査法について説明します。イップスの発症には、脳の大脳辺縁系にある扁桃体が深く関わっています。扁桃体は快や不快を感じるところで恐怖体験や危険な体験、恥ずかしい体験などが不快の中に含まれます。脳は楽しい体験より、恐怖体験や危険な体験ほど記憶に残すようになっています。それは動物でもそうですが生き残るために次に起こるであろう危険に備えて恐怖体験や危険な体験を記憶に残しているのです。次に同じようなことが起こった時、すぐに対処できるようにする為です。人間にもその機能があり、アスリートにとってミスはつらい事であり、恐怖でもあり、時には恥ずかしく感じることでもあります。そういったミスを扁桃体は恐怖体験として記憶することがあります。スポーツでのミスは、危険が迫っている訳でもないのに扁桃体は恐怖体験として記憶してしまいます。扁桃体は感じる部分であって意識的なコントロールは届かないのです。

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 投球ミスをして扁桃体が投げることを恐怖条件づけした場合、次に投げようとする時、視覚やボールを持っている手の皮膚感覚、球場の匂いなどの嗅覚の情報が大脳皮質に伝わり投げることが認識され、その情報が扁桃体に伝わり、扁桃体に伝わると投げることが恐怖条件づけされているので扁桃体は、すぐに反応して防衛本能が働きます。防衛本能が働くと脳内のドーパミンの量が減少します。ドーパミンの量が多い状態だと体は動きやすく、少ないと体は動きにくくなります。その他に視床下部では自律神経的変化が起き、下垂体ではホルモン分泌が起こり屈筋優位の状態になります。上の写真は、アルマジロが防御態勢をとっている写真です。伸筋が働くことなく屈筋が働いています。これは、危機的状況に備えて無意識のうちに防衛本能が働き防御態勢をとろうとしているのです。イップスとは、投球時に起こる防衛反応と言えるのです。
 イップスになるには、何か発症した原因があります。ほとんどが悪送球などのプレー中のミスです。選手本人がイップスになった時の状況を鮮明に覚えていて、その時の感情まで詳しく説明できる場合が多いです。しかし、ごく一部の選手がイップスになっているにも関わらず原因が分からないというケースがあるのも確かです。それは扁桃体がどう感じるかが深くかかわっています。どういうことかと言うと練習中に雷が鳴り始め近くで落雷があったとします。その時、扁桃体は雷の音に驚き恐怖を感じて勝手に投球と雷で驚いたことを結び付け投球イップスになることもあります。投げることと雷は全く関係ないのに扁桃体にはその区別はつきません。その他に練習中に熱中症になった場合、練習に向かっている時に交通事故を目撃した。野球部の仲間とケンカした。こういうことも投げることとは関係ないのに扁桃体が勝手に同じものだと関連付けてイップスになるケースがあります。雷やタイヤのパンクした音などの大きな音に扁桃体は敏感です。野生動物が小さな足音などに反応してすぐ逃げるのと同じで人間にも本能的な部分はあります。イップスのようなことは、球技に限らずいろいろな状況で起こっていると考えられます。相撲の立ち合い、ラグビーのタックル、陸上競技、楽器の演奏や歌など。相撲の立ち合いは頭と頭をぶつけ合います。当然、扁桃体が立ち合いを恐怖条件づけすることも考えられます。ラグビーのタックルも同じです。人前で楽器の演奏や歌を歌う事も、ミスをすると扁桃体は危機的状況と捉え恐怖条件づけすることもあると思います。この場合、この曲のこの部分になると楽器が弾けなかったり歌えなくなったりという形で出て来るのではないかと思います。ただ球技はイップスが起きていることが見た目に分かりやすいから、騒がれているだけです。
 実際にこの事が投球時に本当に起きているのか確かめるイップスの検査法を紹介します。

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 まず両手でも片手でも良いので出来るだけ真っすぐ腕を上げてみます。腕を上げるという動作は、多くの伸筋を使います。

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 次に片手で抵抗を加えながら肘を伸ばします。肘を伸ばす動作も伸筋を使います。

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 もう一つは、片手で抵抗を加えながら指を伸ばします。指を伸ばす動作も伸筋を使っています。次にご自身がイップスになった原因があれば思い出してください。思い出すのがつらい方は、この検査は今すぐ止めて下さい。原因がはっきり分からない方は、練習や試合の時にイップスで上手く投げられない状況を思い出してください。その状況を頭に思い浮かべながら腕を上げてみます。次に同じようにその状況を頭に思い浮かべながら抵抗を加えて肘を伸ばしてみます。指も同じように思い浮かべながら抵抗を加えて伸ばしてみます。最初と比べて、腕が上がりにくくなったり、肘や指が伸ばしにくくなった方がおられると思います。この検査で、はっきり出た方、少し出た方、動きには出なかったが少し気持ち悪い感覚が出た方、検査自体が上手く出来てない方、何も反応がなかった方、いろいろ結果が出たと思います。検査が上手く出来ているか分からない方は、誰かに協力してもらい腕の上がりを見てもらうのと肘を伸ばす時の抵抗する力を加えてもらってみて下さい。
 これは五感の感覚情報からではなく、直接海馬を介して大脳皮質で思い出された状況が大脳皮質から扁桃体に伝わり、扁桃体では投げることが恐怖条件づけされているので防衛本能が働き脳内のドーパミン量の減少や視床下部では自律神経的変化が起き、下垂体ではホルモン分泌が起こり屈筋優位の状態になって伸筋に力が入りにくくなったと考えられます。腕が上がりにくくならなかったり、肘や指が伸ばしにくくならなかって方でも、なんか気持ち悪い感覚があった方は陽性かも知れません。
 実際にボールを投げる時は、もっと強く屈筋優位が出ます。明らかに投げにくい体の状態で投げているのです。脳の異常や誤作動などではなく、扁桃体で投げることが恐怖条件づけされていて投げる時に防衛反応が正しく機能した結果、イップスが起こっているのです。イップスを治すには、扁桃体に投げることが恐怖条件づけされているので、それを消す必要があります。イップスはよく心の問題とかメンタルが原因とか言われますが、治すには脳でどの様な事が起きているかを知ることが大切です。起きていることを理解してイップスを改善するとか克服するとか曖昧な表現ではなく、イップスを治すという明確な目標に向かって進んで行くことが大切なことだと思います。


2019年10月18日