イップス研究報告⑰

イップスと投げ方について(上野レポート) 

 今までにも説明してきましたが暴投などのミスをすると、脳の中の扁桃体が不安や恐怖を感じることがあります。扁桃体が不安や恐怖を感じるとトラウマとして脳に記憶を残すことがあります。そうなると扁桃体に投げることが恐怖条件づけ(イップス研究報告⑧)され、投球イップスになります。

 扁桃体が投げることに反応すると無意識のうちに防衛本能が働き、自律神経的変化やホルモン分泌が起こり全身の屈筋が緊張します。屈筋優位(イップス研究報告⑦)の状態です。屈筋優位の状態でも正しく体を使えば普通に投げることが出来ます。しかし屈筋優位の状態で間違った体の使い方をしてしまうと、さらに屈筋は緊張して体は、一段とコントロール出来ない状態になります。正しいホームを作り上げるには、物理的に正しい方向に力を働かせることが重要です。その事について解説して行きます。

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 テイクバックの時に下半身や体幹は体重移動していて前方への力が働く。その時、ボールを投げる方の腕に後方背中側への力が働くとお互いの力がぶつかり合い動きの邪魔をしてしまう。

 腕に引っ掛かり感が出て腕を前で振ることが困難になるので、体を早く開いて腕を前に出そうとする。肘が下がってしまう。無理やり腕を振ろうとすると力が入り、より屈筋優位が強くなりボールを引っ掛け地面に叩きつけるような投球になってします。又は、腕が前に出てこないのでボールを押さえることが出来ずにボールの下を撫でる形になりボールが浮いてしまう。

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 踏み出した足の膝の向きが投げる方向を向かずインステップしてしまうと、体幹の回転運動が不十分になりやすく、これも腕の振れない原因になります。(股関節周りの強靭な筋力と柔軟性があれば別。)

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 トップの位置辺りで腕で反動をつけようとすると、下半身や体幹が体重移動から回転運動に移ろうとしているのにボールを投げる腕だけ力の方向が逆になってしまいます。慣性の力に逆らう形になり、腕の振りは減速してしまいます。(イップス研究報告⑫)

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 肘から出すという意識は、下半身や体幹の運動を腕が追い越して出てきてしまい、結果的に手投げになり引っ掛けやすくなります。

問診

 引っ掛けるのを意識的に防ごうとすると、ボールの下を撫でてしまいボールは浮いてしまいます。しなりは、腕で作るものではないのです。

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 正しい投球は、下半身の力が体幹に伝わり体幹の前方への動きと回転運動に腕が引っ張り出される形です。腕が引っ張り出されることによって結果的に、しなりが出来ます。

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 肘から先に出すことやリリースを意識すると腕単独の動きになりやすく、下半身や体幹との連動が絶たれてしまいます。腕を振る方向と体幹の回転方向が合いません。腕が体幹の回転方向に合わず縦に振るような形になると腕の振りは不安定なものになり、外旋力(外側に捻る)や内旋力(内側に捻る)が働きボールはシュート回転したりスライダー回転してしまいます。

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 正しい投球は、腕が下半身や体幹と連動していて、腕が体幹の回転運動によって振り出される形です。

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 トップの位置に来てから、下半身や体幹の動きに引っ張り出されるように腕が出て来る時、遠心力が働き体幹軸と上腕軸の角度は、90°ぐらいになります。この時、意識的に90°ぐらいのところに持って行くのではなく、遠心力を上手く使うことが出来れば自然とその位置に来るのです。(イップス研究報告⑨)

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 サイドスローでもアンダースローでも同じで、体幹軸に対して上腕軸は90°ぐらいです。

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 角度が大き過ぎても小さ過ぎても遠心力が上手く使えていないことになります。

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 回転運動の時に遠心力を使うのと同時に、テコの力も上手く使うとリリースしやすくなります。主なテコとして2種類あります。(イップス研究報告⑪)一つ目のテコは、正面から見てグラブを持っている腕が力点で胸辺りが支点になりボールを持っている手が作用点になります。

 二つ目のテコは、横から見た時、股関節が支点で胸辺りが力点になりボールを持っている手が作用点になります。                    

問診

 リリース直前、体幹は回転運動をしているのにスナップで反動をつけようとして後方への力が働く時、やはりお互いの力が邪魔しあって慣性の力も奪われ腕の振りは減速してしまいます。(イップス研究報告⑫)

 上手くリリースするには説明してきたように、体幹や下半身に赤矢印と腕の青矢印がリリースに向かってお互い協力的に働くことが大切です。赤矢印青矢印が協力的に働いている時、慣性の力を上手く使えている状態です。それと遠心力テコの力を上手く使うことも慣性の力を生かす為に重要です。慣性の力を上手く使えていたら腕の振りが加速して、リリースは上手く行きます。逆に慣性の力を上手く使えなければ、腕の振りは減速してしまい、リリースが難しくなります。

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 全身を使い慣性の力を生かし加速しながらリリースすることが出来たら、ボールにロスなく力が伝わります。全身で作ったエネルギーをリリース時にボールに伝えるのが指先です。上手く投げられるかどうかは、全身で作ったエネルギーをボールに上手く伝えられるかどうかで決まります。エネルギーをボールに上手く伝えることが出来れば、スピンのかかった切れがあり勢いのある理想的な投球が出来るでしょう。

 イップスになると屈筋優位の状態で体をコントロールしにくくなります。そしてイップスの選手は投球時に、両足・両腕・体幹の力の方向がバラバラになっていることが多くあります。イップスの選手の投球は、両足・両腕・体幹の力の方向が合っていないので、腕の振りがリリースまでに必ず減速してしまいます。リリースまでは、必ず加速し続ける。リリースまでに減速してしまうとリリースは上手く行きません。

 近距離や遅い球を投げる場合であっても、遅い速度や弱い力の腕の振りの中で加速しながらリリースしなけらば、上手く投げられません。(イップス研究報告⑫)イップスの選手で近距離が苦手な方が多く、近距離だと投球動作にブレーキをかける形になり、極端な減速が起こる為、リリースしずらいのです。逆に遠投などの長い距離だと、腕の振りに減速が起こりにくく比較的投げやすいのです。
 イップスは、根性では治りません。投球ホームのバランスが崩れているのに、頑張って練習すると脳は間違った投球ホームを記憶して行きます。(イップス研究報告⑮)
 当院のイップス治療は、心技体の3つにアプローチしていきます。投球技術については、関節の構造を考えた上で物理的に正しい投げ方になるように修正していきます。イップスで屈筋優位の状態であっても、物理の力を使えば普通に投げられます。正しく投げることを何度か繰り返していけば、扁桃体は投げることを恐怖条件づけから外してくれます。(イップス研究報告⑭)この事をイップスが治ったと言うのです。
 イップスの状態で、心の底から野球を楽しむということは難しいことです。思い通りに投げられるようになると自然と野球を楽しめます。


2019年09月30日