精神医学(中村天風書籍より②)

うつ病・パニック障害

 薬さえ飲めば、それで病は治るものだと思っている人がいたら、これまた大変な見当違いである。
 最近は、世の中ずいぶん科学的な思考になり、すべてにおいて合理的な考え方をするようになってきたとは言うものの、いざ病にでもなると、案外こういう早とちりをする人が多いことは、まことにもって残念なことである。
 薬さえ飲めば、それで病は治ると思っている、そういう気楽な人は、実際世の中には、案外といるものなのである。でも、こういう考え方は、最もいけない考え方で、それも昔のように、草根木皮を主体とした、いわゆる漢方薬ならまだやむを得ないと言えるのだが。
 それと言うのも、さしたる中毒反応も無いからではあるが、しかしこれも、厳密に言えば漢方薬といえども、きわめて微かではあるが、やはり副反応という弊害が無いとは言えない事も、一応は知っておいたほうがよい。
 だが、あったとしても、たいしたことはない。少なくとも、決定的な障害とはならないものである。科学的に合成した薬となると、これは、そのほとんどが、大なり小なり副作用というものが生ずる。
 つまり、鋭敏な中毒反応を起こすのである。これが薬害だが、これは一般に考えられているより、はるかに恐ろしいものがある。もちろん、時には治すどころか、反対に命取りにさえなりかねないのである。
 これは、時折実例があるから、よく分かると思う。何しろ無機質の薬というものは、生きている体内に入ると、どうしても中毒反応を起こす。何故なら、無機質には、命が働いていないからなのである。
 しかも、薬というものは、必ず効くという、いわゆる特効薬は、きわめて少ない。つまり、薬のほとんどはいわゆる対症療法の薬であり、一時的に症状を抑えるという効果はあるのだが、本当に治してくれるものではない。ここが、大事なところなのである。
 なるほど薬は、一時的に苦痛や悩みから、ある程度人間を解放してくれるかもしれない。したがって時には、それで一見治ったような気分になるかもしれないが、しかしそれで、根本的に治っているというわけではないのである。
 例えば、解熱剤を飲めば熱は取れる。しかし、だからと言って、それで病が治ったというわけではない、と言うが如しである。
 では、いったい誰が治してくれると言うのか。それは、あくまでも、人間が本来持っているところの回復力が治してくれるのである。つまり、誰でもが持っているこの自然治癒力という、偉大な働きによって治るのである。薬物というものは、あくまでも人間が本来持つ自然治癒力をより有効に発揮するための補助的手段に過ぎない。
 したがって、病になったらこうした基本原則を、まずもって念頭に置いておくことが、治病への第一歩でなければならない。

2021年08月11日