イップス研究報告⑮

イップスと性格 

 今までにも説明してきましたが人間にも本能があります。危険な体験、怖い体験、スポーツでのミス、これらが脳で危機的状況として処理され、経験した嫌な記憶をトラウマとして残します。人間を含め動物は再び同じような危機的状況になった時、自分の身を守る為に防衛本能が働きます。これは動物が危険から身を守り生き抜く為の大切な機能です。イップスが脳の誤作動と表現されることがありますが、私は、イップスが脳の誤作動と表現されることにすごく違和感を持っています。イップスは、脳から投げるという意識的な命令と無意識的に防衛本能が働き防御態勢をとれという命令が同時に出ていまい思い通りに投げられないのです。誤作動ではなく、むしろ防衛本能が正常に働いた結果起きているのです。イップスの選手の脳の状態は極めて正常ということになります。しかしスポーツをする時に脳から意識的な運動の命令と無意識的な防御態勢をとれという命令が同時に出てしまうイップスの状態は最大の敵になります。

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 脳は3層構造になっています。表層は人間脳と言われ大脳皮質で考える部分です。その奥は哺乳類脳と言われ大脳辺縁系で感じる部分です。その一部が扁桃体です。そのさらに奥が爬虫類脳と言われ脳幹で生命維持に重要な部分です。大脳辺縁系や脳幹には意識的なコントロールは届きません。ボールを投げることは、命の危機が迫っている訳ではないのに扁桃体が投球ミスを恐怖だと感じれば危機的状況になります。扁桃体は感じる部分なので生命の危機が迫っている状況と投球ミスの区別はつかないのです。扁桃体が恐怖を感じれば同じ結果になってしまいます。

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 扁桃体は大脳皮質から送られた5感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)の情報を元に喜怒哀楽を判断し処理します。喜怒哀楽の中で嫌な記憶ほど残ると言われます。それは生き抜く為に防衛本能を働かせる必要があるからです。嫌な記憶を脳はトラウマとして残し次に同じような危機的状況に出くわした場合、即座に防衛本能が働くように恐怖条件づけして備えているのです。恐怖条件づけされた出来事と同じ事やそれを連想させることが起きた場合、扁桃体は即座に反応し防衛本能を働かせます。

 

 ブリーフシステムは日本語に訳すと『ブリーフ』は『信念』で、『システム』は『体系』です。「信念体系」のことです。

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 ブリーフシステムとは、生まれた時からの経験や、親や先生、友人、メディアからの情報などによって摺り込まれた認識の集合体です。
 個人個人が強く信じて疑わない拘りは、すべてその人の信念なのです。信念は、その人が物事を判断する際の基準となります。「信念」といっても、それらは自分の自由意思で獲得したものではなく、過去の感情を伴った記憶や、過去に自分が受け入れた外部の言葉によって作られます。

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 作られたブリーフシステムは、人間の脳の中で最も進化した、知性を司る部位である大脳皮質の「前頭前野」にパターン化されて蓄積され、人はそのブリーフシステムによって、無意識のうちに未来のことを予期・予想して、ものごとを選択したり行動したりするのです。
 世の中で「性格」だと思われているもの、すなわち、その人の思考や行動の傾向を決定するのは、成長の過程で後天的に作られたブリーフシステムであり、当然のことながら遺伝的なものではありません。
 イップスの選手が性格のことをどうこう言われるのは、すごく嫌なことだと思います。それは性格が過去の感情を伴った記憶や、過去に自分が受け入れた外部の言葉によって長年の間に出来上がったものであって、すぐに変えられるものではないし、他人に否定されたくない部分だからです。
 イップスでいうと信念や拘りがイップスに導いたり、イップスを悪化させる原因の一つになります。どういうことかというとミスしてはいけない、悪送球をしてはいけないという固定観念は、ミスや悪送球に対して扁桃体の反応を過敏にします。扁桃体に大脳皮質の意識的なコントロールは届きませんが、大脳皮質と扁桃体では情報のやり取りが行われているので、ミスや悪送球をしてはいけない事だと強く思っていると、ミスや悪送球に対して扁桃体が過敏に反応し不快や恐怖を感じやすくなります。
 小さなミスから大きなミスまでいろいろあると思いますが、プロの一流選手でも必ずミスをします。バッターで言うとプロの一流の選手でヒットの割合が良くて4割です。6割は、上手くボールを捕らえることが出来ずにミスしていることになります。どんなにまじめに練習しても人間は必ずミスしてしまうものです。送球ミスは絶対にしてはいけないという固定観念は捨てた方が良いと思います。そういう信念はイップスになりやすくしてしまいますし、イップスを治りづらくさせます。
 誰もミスや悪送球をしようと思ってしている人は一人もいません。毎日真面目に練習しても必ずミスや悪送球は起きてしまいます。性格は変えなくても良いので、まずはミスや悪送球をしてはいけないという固定観念だけ変えてみましょう!

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 当院では、心技体の3つすべてを治療していきます。イップスは心の問題だとよく言われますが、心のケアだけでは、投球のパフォーマンスが戻らないと私は思っています。イップスの心のケアというのは投げることに対して扁桃体のスイッチがONの状態からOFFにすることで、それだけでは投球のパフォーマンスが良くならないことが多くあると思っています。

 ップスになると体が思うように動かず間違った動作を繰り返します。心の問題が解消されても間違った動作の記憶は脳に残ったままです。イップスの期間が長くなればなるほど間違った動作の記憶は脳に色濃く残ります。イップスになる前に技術的には出来ていたとしても、投球動作を理解出来ていたのか?イップスになって2カ月以上ご自身でいろいろやってみて治っていないなら、投球動作の理解ということは出来ていなかったのだと思います。本当にイップスを治すなら投球動作を理解して、正しい投球動作を身に着ける必要があります。扁桃体の投げる動作に対する恐怖条件づけ・すくみ反応を心のケアと投球動作の改善・理解で消し去ります。上手く投げることが出来れば扁桃体は投げることに対しての恐怖条件づけを消してくれます。体に関しては、良いパフォーマンスが出来るコンディションにするとことも、とても重要です。このように考えてイップス治療を行っています。

2019年08月19日