投球とテコの原理
体を動かす時、3パターンのテコが存在します。第一のテコは、支点が真ん中で端が力点と作用点になります。第二のテコは、端に支点で真ん中が作用点で逆端が力点になります。第三のテコは、端に支点で真ん中が力点で逆端が作用点になります。
イップスが発動された時、選手の体は屈筋優位の状態に陥ります。筋力に依存する投げ方は、より屈筋優位を強めてしまいます。逆に物理的な力を利用した投球は屈筋優位を弱めてくれます。今回説明していくテコの原理は筋肉が骨から骨へ関節をまたいで付着している以上、体を動かす時に必ず使っています。体を動かす時に無意識の内にテコを必ず使っているものの正しく使えているか、より効果的な使い方が出来ているかということが重要になってきます。
例えば5tの重さの象がシーソーに乗っていたとします。象の乗っている位置は支点から5cmのところとします。50kgの人が5tの象をテコを使って持ち上げることが出来るでしょうか?
5000(kg)×0.05(m)=50(kg)×□ 5000(kg)×0.05(m)/50(kg)=5(m) 計算上の話ですが、支点から5mのところに50kgの人が乗ると5tの象と釣り合って5mを超えると象を持ち上げる事も可能ということになります。それほどテコの力は強力だということです。
人体の中にテコとして働く部位は無数に存在します。その中でも投球時に使う重要な大きなテコについて説明します。
まず1つ目のテコは投球時に正面から見た場合、グラブを持っている方の腕が力点で胸が支点になりボールを持った手が作用点です(第一のテコ)。本来、支点から力点や作用点の距離が遠ければ遠いほどテコの力は強くなりますが、投球の場合は回転運動をしながらテコを使うことを考えればグラブをはめている腕をコンパクトに使い、体幹軸の回転速度を上げる必要があります。フィギアスケートでも腕を伸ばし広げた時の回転速度は遅く、腕を曲げて体幹に近づけた時の回転速度は速くなります。逆に作用点は支点から出来るだけ離れた位置に持って行きテコの力を最大限使います。意識して支点から作用点の距離を離すのではなく、遠心力が上手く使えていれば勝手に離れます。体幹の回転にボールを持っている方の腕が振られれば、遠心力が働きリリースの手前ぐらいで支点から作用点までの距離は最大になります。作用点と力点の力の方向は支点を中心に真逆の方向になります(上の第一のテコの図を参照)。正面から見た時、このようなテコの使い方が出来れば物理的に正しい投球に近づきます。
次に2つ目のテコは、横方向から見た時に踏み出した足の股関節が支点になり胸が力点でボールを持った手が作用点になります(第三のテコ)。股関節が支点になり胸辺りを力点とした前方への力が生まれ、その力に腕が引っ張り出されるように振られ手が作用点となります。
股関節を支点として力点である胸辺りの前方への力に腕が引っ張られながら出て来る時、体幹・腕はしなります。体幹や腕がしなれば弓矢のように張力もテコの力にプラスして使え、より強い力をボールに伝えることが出来ます。
投球時の技術面の話になりましたが、投球時にこれらのテコを上手く使うことでイップスの時に起こっている屈筋優位や硬直を軽減しスムーズに投球することが出来ます。リリースの瞬間、テコや遠心力が上手く使えていればボールに上手く力が伝わり自然とボールが手から離れて行きます。リリースの瞬間に迷うのはこれらの物理的な力が上手く使えていない可能性が高いと思われます。