正しい投球動作は体重移動し踏み出した足が着地した時には、ボールを投げる手がトップの位置に来ていて、踏み出し足の着地と同時ぐらいに軸の回転運動が起こり、その軸の回転に腕が引っ張られるように振られてボールを投げるという一連の動作になります。
正しく連動した投球動作は、車の運転に例えるならアクセルを踏んだ状態です。ロスなく体重移動や回転運動の力を生かして腕が振られるという動作です。速い球・遅い球・遠くに投げる・近くに投げるなどを調節するのは、アクセルを強く踏むか弱く踏むかです。投げる動作の途中にブレーキを踏むという行為は必要ないですし、踏んではいけないということです。あくまでもアクセルだけでコントロールすることが大切です。
イップスの場合、投球動作の途中でブレーキをかけてしまっていて一連の連動した動作が出来ないのです。なぜブレーキがかかるかというと心の問題(防衛反応が働く、躊躇い加減するなどの感情が働く)もありますが、技術的なことで言うとそれぞれの関節が動きたい方向と動きたくない方向があるとしたら、関節のどこかが動きたくない方向に動かされている。または関節が動きたいタイミングと動きたくないタイミングがあるとしたら動きたくないタイミングで動かされている。
人体の関節の構造の説明です。胸郭と肩甲骨の間にできる関節が肩甲胸郭関節・胸骨と鎖骨の間にできる関節が胸鎖関節・肩甲骨と鎖骨の間にできる関節が肩鎖関節・肩甲骨と上腕骨の間にできる関節が肩関節・上腕骨と尺骨の間にできる関節が腕尺関節・上腕骨と橈骨の間にできる関節が腕橈関節・橈骨と手根の間にできる関節が橈骨手根関節・手の関節として手根間関節、手根中手関節、中手指節関節、指節関節などがあります。肩から先だけでこれだけの関節があって、それぞれに関節の特徴があり動きが様々です。これらの関節を意識的に連動させて動かすのは至難の業です。
当院では、関節の構造を踏まえた上で重力・作用反作用の力・慣性の力・遠心力・テコの原理などを最大限利用して投球動作を作ります。その選手にとっての正しい投球ホームはいくつもある訳ではありません。正しい投球ホームは一つだけです。関節の構造を踏まえた上で物理的な力を利用すれば一つの投球ホームに辿り着きます。良いホームとは、筋力を出来るだけ使わず物理的に生まれたエネルギーをボールに伝えるといった形になります。その投球ホームこそが筋肉や関節に無理のない正しい形です。大切なことはリリースの瞬間にしっかりとボールに力を伝えることです。力一杯投げなくても物理的な力を使いこなせれば速い球を投げれますし、自然とコントロールも良くなります。無理なホームの修正をするのではなく、ドリルをこなして行きながら自然と物理的に正しい関節の使い方が習得できるようにして行きます。