防衛本能とイップス①
動物には防衛本能がある。危機的状況が迫った時に命を守る手段として①闘争(攻撃行動)②逃走(危険対象から離れ命を守る)③防御(・背を向けて丸くなる・硬い背部を表にする・表面積を小さくする・柔らかい腹面には大切な内臓があるのでしっかり守る)。地球に最初の生命が誕生したのは約 38億年前のことです。進化の過程で生き残るために動物はいろいろな本能を獲得して来ました。その中の1つが防衛本能です。
もちろん防衛本能は人間にも備わっていて、例えば工事中のビルの近くを歩行中に、「危ない!」という声が聞こえたら咄嗟に頭を隠して体を丸くすると思います。人間の場合、学習して危険な時には大切な頭を守るということを意識的にやっている部分もあると思いますが、無意識的に防衛本能が働いて体を守る態勢になっている部分もあるのです。
スポーツにおける大事なプレーの時にミスしてはいけないと思う気持ちやミスをして落ち込む気持ちやミスによる羞恥心は、危機的状況として処理されてしまうことがあります。危機的状況での恐怖体験はトラウマになり心に残ります。体験したことが恐怖かどうかは意識的に決めるのではなく、無意識的に心が恐怖だと感じれば恐怖でありトラウマになってしまうことがあるのです。トラウマが心の中に残り同じ恐怖を予感させる状況になった時、危険を避け生き抜くための防衛本能が無意識に働きます。
正しい運動は骨盤が前傾気味で伸筋がやや緊張した状態で行われる。体重移動や回転運動がスムーズに出来る状態です。
逆に危機的状況を予感して防衛本能が働いた状態が心の面から見たイップスの状態で無意識に防御態勢をとろうとする。防御態勢とは、体を丸くし腕や足は曲げた状態です。イップスの起こっている時、体幹は屈筋優位の状態となり骨盤が後傾し背中はやや丸くなる。手・腕・足も屈筋優位で伸びにくくなる。
イップスで骨盤が後傾し背中がやや丸くなった状態では、まず体重移動と回転運動が上手く行かない。胸を張る動きも出来ないのでトップの位置に手を持って行けない。腕も屈筋優位の状態で投げる・打つの動作の時、腕が縮こまり、手の筋肉も屈筋優位でボールが指に引っ掛かり地面に叩きつけるような送球になる。ボールが指に引っ掛かることを避けたくて無理やり力を抜こうとするとボールの下を指で撫でる形になり高めに浮く。酷いと投げる動作の途中で落球する。イップスの選手でよくある話ですが感覚が無く自分の腕・手ではないように感じる。手に手袋をハメている様で感覚が鈍い。最終的に自分の身を守れず動物が捕食動物に捕食される時、防衛本能の最終手段として痛みを感じないように麻痺状態になると言われています。もしかしたらイップスの腕・手の感覚が鈍くなるのも関連性があるのかも知れません。
イップスは動物が本来、命を守り生き抜くための防衛本能が正しく働いた状態で異常なことではないと思っています。健康な状態の選手に当たり前に起こり得ることなのです。